100年に一度の逸材、スーパーナチュラルイケメンモンスター現る
学校では、どんな生徒が人気だと思いますか?運動が得意な生徒?勉強のできる生徒?部活で活躍している生徒?優しい生徒?容姿のいい生徒?
いるところにはいます!本物の、スーパースターの姿をとくとご覧あれ。
その生徒は、3年生で担任をすることになった男子生徒N君です。
当時私がいたのは大規模校で、学年に国語の教師が二人いました。
そんな事情で、3年生になるまで彼の学級担になったことも教科担になったこともありませんでした。言わば ほぼ他人。
クラス分け資料には、リーダーのマークがついていますから、信頼のおける生徒なんでしょう。
この子に学級代表をやってもらえるといいな…
というか、この子しかいないじゃん、という難易度の高い学級編成ですから、この子を学級代表に据えることが私のファーストミッションです。
学級を開けてみると、クラスに教えたことのない生徒がわんさかいます。
まるっきり、新1年生持ってるみたい。
そういうときは3年生の学級開きの方が緊張します。あちらも目が肥えてますし、次なるコイツはどうなんやって推し測ってますからね。
だから学級開きでもそのことを素直に話します。
相手を知らないのはお互い様ですから、私に教わったことない生徒にしてみれば、不安でいっぱいのはずです。
それが良かったのか悪かったのか…私が2年間担任をしていた、やんちゃ君が私のところにやってきました。
「先生、知らない奴が多くて不安なんでしょ?俺が学級代表やってやるから安心してよ。」
ぎゃ~~~~
やめてやめて~~~~
心の中で叫ぶ私。
前期の学級代表は、学級作りの土台を担う人物ですから、とっても大切です。
君じゃイヤ!!!!
…そう言いたい気持ち200%だけど、
「そうなの?ありがとう!じゃ、役員決めの時に、立候補してね。選挙になっちゃうかもしれないけど、それで落ちても仕方n…(モゴモゴモゴ…)」
心にもない嘘をつき、そして裏では(はやくNに声かけよう…)と焦る私。
周りの生徒にリサーチすると、どの子も一様に「学級代表はNだろ!」と言います。
当のNに声をかけると、Nは言いました。
「僕は良いですけど。やんちゃ君がやりたいって言ってますから、彼が立候補したら僕はサポートに回る方が良くないですか?」
え~いやだいやだ、それはイヤだ!
しかし、結局は、やんちゃ君が いの一番に立候補して、Nはなんの役員にも就きませんでした。
当然、なんのリーダー性も無いやんちゃ君ですから、学級は混乱する…かとおもいきや。
上手く回ってる。
なにこれ?
どうやら、裏で、Nがいろいろ巧妙にサポートしているらしい。
例えば、学級目標を決める学活。
司会などしたこともないやんちゃ君に、やり方や台詞を全部教え、一時間を仕切らせる。
移動教室の際には、出席簿を学級代表が持ち歩くのですが、当然忘れるやんちゃ君の代わりにNが持って移動。
我が校では、移動教室の際や放課後は教室に鍵をかけることになっているのですが、その鍵は本来学級代表しか触ってはいけないことになっています。
が。Nが持ち歩く。
放課後も、Nが職員室に返しに来るのですが、教員何も言わず。
「お、ご苦労さん」的な。
いや、ルールって何⁉︎
そんなNの周りには、常に、男子が群がっています。
教室内にいるときは、Nの周りを取り囲むように、10人近い男子が群れまくり。
Nが中心になって何か話しているかと思いきや、Nは中心で静かに本を読んでいたり、問題集をやっていたり、ちょっと笑って他の生徒の話を聞いていたり。
それでもいつもNの周りは男子でいっぱい。
そんな様子を、教員は親しみを込めて「N玉」と呼んでいました。
(ちなみに我々教員は、結構、生徒に内緒のあだ名を付けています。もちろん、他愛のないものばかりですけどね。)
N玉は、教室の中はもちろん、Nのいるところなら部活や廊下などどこでもできます。
とにかく男子に大人気なのです。
細身で端正な顔立ちの上、抜群に頭が良く誰にでも公平に優しいので、もちろん女子だってみんな大好きなんですが。
はっきり言って、近づく隙も無いくらい、男子に取り囲まれています。
あんな生徒は、後にも先にも見たことがありません。
なにゆえNはそんなに人気者なのでしょうか?

怪物の正体に震撼した日
N玉ができるほど、男子にめちゃくちゃ人気の少年、N。
何故に彼がそんなに人気なのか?
それは、彼の特殊能力にありました。
最近の学校には、教育相談日という期間が設けられています。
だいたい、一年間に2回くらいでしょうか。だいたい5月と11月くらいに、1週間くらいかけて、学級の全生徒と話をするのです。
普段忙しくて(これは、教員だけでなく、生徒もです)なかなかゆっくり話せませんから、じっくり時間とって相談したいこと相談しようよっていう、そんなコンセプト。
Nとも、この期間に、初めて話すことになりました。
なにしろ、人気すぎる少年ですから、私が近づく隙もありません。
5月の夕方、その日予定していた5人の一番最後に初めて向かい合ったN少年は、
穏やかに、自分の将来の不安や、勉強の苦しさ、部活での悩みについて語りました。
中学3年生らしい、いかにも青春を謳歌するかのような悩みの数々。
アドバイスする立場の私も、自然と熱が入ります。
N少年も、熱心に聞いてくれ、その様子が心地よい、本当に感じの良い少年です。
ところが、ひょんなことから、彼が、実はボカロ好きだということがわかりました。
実は普段は隠しているけれど、私も大のボカロ好き。
※ボカロとは
最初はお互いに好きなボーカロイドやボカロ作曲家について恐る恐る語っていたのですが、びっくりするくらい、お互い趣味が似ていまして。
教育相談そっちのけで、ボカロ談義に花が咲く。
教育相談用に持っていたA4ノートに、お互いの好きなボカロ曲を書き、
相手に聞いてほしいリストを作り、
もはや教師と生徒ではなく、完全に趣味友達。
この趣味は、分かり合える人を選ぶところがあり、それゆえになかなか同好の士に巡り会うことがないのですが
意外な場所で意外な人と、趣味を通じて語り合えた喜び。
後にも先にも、あんなに楽しかった教育相談はありません。
気がつけば下校時刻を遥か過ぎ、あわててN少年を家まで送っていきました。
残念ながら、その後は、ゆっくり趣味談義をする暇も無く、
次の機会の教育相談日には、中3生との話題と言えば、
「受験」
のことのみとなっていきました…。

ところで、N少年は、ある部活動で華々しい活躍をしており、
強豪の私立高校から、推薦入学のお誘いを頂くこととなりました。
あちらから監督さんが来られると言うことで、
N少年とご両親、担任と部活顧問と進路指導主任とが参加して
話し合うことになりました。
監督さんが一通りの説明をされた後、
「なにか質問はありませんか。」
と聞かれました。
今まで、同様のお誘いの会には何度も立ち会ったことがありますが、
子供も親も、たいていは緊張しまくって
何も聞けないどころか、
監督さんの話の内容すら、覚えていないことが多いものです。
ところが、N少年は違った。
穏やかに、その強豪校出身の、プロ選手の名前を出し、
その選手の良いところや尊敬できる部分を語った後、
「○○選手はどんな高校生だったのですか?」
と聞いたのです。
驚いたのは監督さん。
「よく知っているね。」
と言われた後、非常にうれしそうにその選手の話をされました。
絶妙のタイミングで、合いの手を入れながら聞くN少年。
親も我々教員もそっちのけで、
監督とN少年の話は大盛り上がり。
監督さんは上機嫌で
「是非、是非、うちに来なさい!!うちで面倒見させてくれ!」
と言われ、何度も彼と握手して 帰って行かれました。

この会の途中、
私は、はっと気がつきました。
そうか…あのときの教育相談。
すごく楽しかったのは、N少年が、
私の好きな話をそれとなく探った上で
私に合わせてくれてたからなんだ…
私が相談を聞く立場だったはずなのに、
実は自分がもてなされていた!!
という事実。
そのことに、今更ながらに気づいたのです。
相手に応じて、変幻自在に合わせられる能力を持つ少年N。
最後の最後まで、
クラスの、いや、学年一の人気者でした。
特殊能力で、あらゆる人生の荒波を軽やかに乗り越える 美しき人生5周目の男。
爽やかな笑顔と共に、当地でも最難関とされる高校にすんなり入学して、華麗に旅立って行きました。
今頃、人生8周目くらいを爆走しているかもしれません。
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