大人の事件簿シリーズ② “ひまわり先生”と消えた時間割

エッセイ

颯爽と現れた数学教師




その先生は、他の学校から転勤してこられました。

40代、数学科、男性。

明るく穏やか、朗らかな笑いを取って周りを笑顔にするような勢いのある先生です。

非常に頭の回転が速く、

転勤先の本校で教務部(生徒の成績や学籍や出席に関わる事務をつかさどる部門)に配属されるやいなや、

時間割作成の仕事を自ら志願。

新一年生の名表作成等も全部任せてくれと

一手に引き受けられました。


初日から全開モード


転勤初日は、右も左もわからないのですから、

たいていの異動教員は5時になると退校します。

しかしその数学教師は、

初日から積極的に周りの教員と交流し、

物品のありかや校内LANの構築状況などを一気に点検。

早くも敏腕ぶりを発揮して精力的に働いていました。

「1組」を担任する意味


担任も引き受けて、1組を担当。

1組って案外重要なんですよ。

行事の時に一番に移動するのが1組。

式等で一番に名前を呼ばれるのも1組。

1組がちゃんとしていれば、

他の学級はそれに追随すれば良いだけですから、

1組の出方が問われます。

もちろん、自ら申し出て1組。

やる気の塊のような先生です。


ひまわりのようなバイタリティ


2日目くらいには多分、校内全ての先生と話したんじゃないですかね?

事務とも、業務員さんとも、購買や昼食配膳担当のパートさん達とも…

明るく、華やかで、魅力的で、まるでひまわりのような先生です。

羨ましいくらいのバイタリティ。

戦場のような新学期、そして…


3日目

そろそろ、本格的に学校が動き出す頃です。

一年の初めは、戦場の最前線と言っても過言ではないくらいの忙しさ。

学年開きに分掌業務(生徒指導や成績処理など、授業以外の校務)、

学級の準備もしなければなりませんから、

4月の最初は、9時を過ぎても学校の明かりが消えることはありません。

時間割作成のための大元になる一週間の基本時間割も、

この頃に組み始める必要があります。

3日目のこの日、その数学の先生は、学校を休まれました。

原因は体調不良だそうです。

異動後ずっと夜遅くまでフルパワーで働いてらっしゃったので、

疲れが出たのでしょう。

お身体、大切にしてほしいです。


体調不良、そして業務に影響が…


4日目

連続してお休みです。

聞くところによると、インフルエンザに罹患したらしく。

これは大変です。

時間割の作成や学年名簿の作成、1組担任など、

重要な仕事を一手に引き受けられていましたから。

中でも、時間割の作成は急務です。

その先生に電話をかけ、

どこまで出来ているか聞いてみると、

もう少しで出来上がるくらいだそうで。

家で出来る仕事だから、家で作って、

学校にはメールで送るという。

学級の方は明日から始まるが、

取りあえず、副担が学級開きすることで対応。

5日目

インフルエンザ。お休み。副担が入学式の呼名と学級開き。

6日目。

インフルエンザ。お休み。


時間割はどうなりました?


教務主任が連絡を取る。

今の時代、時間割は昔のように固定ではありません。

毎日、時間割作成の担当者が作成します。

時間数の完全管理が至上命令ですから、

指導要領に書かれている時間数を完全遵守するためには、

毎日の時間割作成は必須業務です。

まずは基本の時間割を作成し、

その時間割を元に少しずつコマを動かしながら作る地道で大変な作業。

教務主任「時間割出来ましたか?」

数学教師「体調が悪くて…明日にはなんとか…」

教務主任「ちょっと、時間が無いので、出来ているところまで送ってくれませんか?」

数学教師「了解です。」

………数分後。あちらから、メールが送られてきました。簡素な文章です。

「時間割が消えてしまいました。復旧できそうもありません。よろしくお願いします。」

ええええ~~~~!?

大規模校の職員室が、凍りつきました!

学校の窮地と、その後


もう、学校は動いてるんですよ?

最初の2日くらいはなんとかなりますが、

2,3年生は授業開始が早いですから、

とにかくすぐ基本の時間割が要ります!!

教務の先生達総出で時間割を組む。

幸いにも土日が挟まって、なんとかなったらしいですが…肝の冷える話です。

しかも、その先生…その後、そのまま病休に入られ…

二度と再び、学校に来ることはなかったのです。

次の年、転勤…

聞くところによると、なんか、学校じゃないところに配属されたらしい。


あれは一体、なんだったのか?


後で知った話ですが、以前の学校でも病休を取られていたそうで…

精神的な病だったそうです。

状況からして、異動で来られたときの様子は躁状態だったのかもしれません。

過剰な自信と周りを圧倒する魅力。

華やかな笑いと滑らかな口上。

今思えば、異常でした。

ひまわり先生の後始末のために、後任の先生が急に必要になり

担任を誰かが引き継がねばならず

急ごしらえの基本時間割のせいで

1年間、なんとなく不具合の多い時間割で

授業をせねばなりませんでした。

ひまわり先生……元気にしてるかな?

今もどこかで、光と闇の間を行ったり来たりしているのかもしれません。

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