我々の仕事って、ナマモノ相手なだけあって、忙しいけど、本当に退屈だけはしない。
先日も、規格外の大物に出くわしたので、ここに奉納。
その日は参観日であった。最近は平日の授業参観でもパパさんの参加率が高い。
そのパパさんは、ブルーの細身のダンガリーシャツに細身のグレーパンツをビシッと決めててなんだか
シャレオツ。身長180センチくらいありそうな雰囲気イケメンでしたが、入ってきた瞬間から違和感。
ん?キャップかぶってる…?
しかもよく見るとクマの刺繍入ってる??ん??ちょっとカワッテルネ??
パパさんは小脇にA4サイズくらいの薄手バッグを挟んでおり、たまたま空いていた一番後ろの欠席生徒
の座席に…す、座ったぁ!!(もう、目が離せない)
ご近所の噂話に夢中で、授業も子供もろくにみてなかったママさんたちが一瞬にして黙る。
今日だけは失敗できないと悲壮な覚悟を決めていたはずのやんちゃ坊主たちも、前を向いて静かに授業
受けるなんて無理。
わしだって、授業しながらも、パパさんの動向が気になる。
パパさんはカバンの中から静かに何かの冊子を取り出し、胸ポケットからペンを出した。な、なに…?
同業者??もしや、教育委員会の人?もしそうならここまでの行動にはまあ、納得できなくもないけ
ど…いややっぱ、クマのキャップの説明がつかんだろ。
パパさん、マイ冊子をおもむろに開く。机間巡視のフリして、接近するわし。
き、教科書のコピー!?
やばい、やっぱガチ勢じゃん、これはなんらかの特命を受けて、最近すっかり手も気も抜きがちなわし
の授業を監視に来たとしか思えない。
参観授業でさえも、もはや はなくそピー(自主規制)ほじりながら左手でチョーク持ってへのへのもへ
じが描けるくらい、そこそこ場数踏んでるわしでも、パパさんの鋭い視線には耐えられない。
教科書のコピーに書き込みをするパパさん。冊子の裏に何か書き付けるパパさん。
焦るわし。ちょっと真面目に授業するわし。
ぐるっと見渡すパパさん。ちょっと教室の隅っこ乱れてるの気になるわし。
消しゴム出すパパさん。存在ごと消されそうで焦るわし。
「…あれ?これ この間やったけどな〜?忘れちゃったかな?ほら、この表現技法のことなんていうんだ
ったっけ?」
生徒はすっかり表現技法習ったの忘れてるし、わしは完全に何者かに採点されてるし、やばい。やばす
ぎる。
と、そのとき。
パパさんはすぅっと右手をあげた。
やばいっ!撃たれる!
右手は耳の横を通り、美しい直線を描いて真上に上げられている。
…チョットマッテクダサイ。
もしかして、挙手されてます?
ごくりと唾を飲み込みながら、「…どうぞ。」当てる。名前知らないから、どうぞっていうしかないやん。
「直喩です。」
「…せ、正解です。あ、ありがとうございます。いや〜みんなよかったね〜お父さんのおかげで思い出
せたね!」
生徒、半数が呆然、半数はスン顔。ナンジャコリャ?
後で聞いたところによると、そのパパさんは、小学校の頃から参観授業に現れては子供と一緒に授業を
受けることで有名な保護者だったらしい。
しかし、過去をよく知る生徒は興奮気味に言った。
「でもさ、先生、発表したのは初めてだったよ!」
まあ、そうでしょうよ…わしだって、この業界結構長いけど、初めてでしたもん。
過激に変わってる、規格外のイケメン風味パパさん。
まさか次の参観日にも現れるのかな…
…せめて、出欠だけでも事前に教えてもらえます?心の準備がいるんで。
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